運送業の「安売り競争」は終焉へ!トラック新法で経営の根幹が変わる

「また法律が変わるのか…」とため息をついている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今回、国会で成立した「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」は、
これまでの「努力義務」や「ガイドライン」とは一線を画す、あなたの会社の経営、そして業界の未来を根底から変える「法律上の義務」です。
長年にわたり業界を苦しめてきた運賃のダンピング競争や、ドライバーの劣悪な労働環境。
これらの「なぜ」を深く掘り下げ、もう見過ごせないと国が判断した結果が、今回の厳しい改正案に込められています。
見過ごすと、単なる行政指導では済まない、会社存続に関わる最も重いリスクに直面するという
この現実を、真剣に受け止めていただく必要があります。
最重要ポイント①:「標準的運賃」の廃止と「適正原価」の導入
これまでの「標準的運賃」は、あくまでも目安でした。しかし、これでは安値競争を止めることはできませんでしたね。
今回の改正では、この「標準的運賃」が廃止され、国が燃料費や人件費といった事業の適正な運営に通常必要と認められる費用を的確に反映した「適正原価」が新たに定められます。
トラック運送事業者は、自ら貨物を運ぶときや、他の事業者に運送を委託するときは、国土交通大臣が定める「適正原価」を継続して下回らないことを確保(※標準的な運賃については廃止)
— 貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案(衆議院提出資料より)
これは単なる価格基準ではありません。この適正原価より安い運賃で仕事を受けてはならない、と法律で明確に定められます。安売り競争の時代は、法律の力によって完全に幕を閉じると言えるでしょう。
最重要ポイント②:無許可の「白トラ」対策と荷主への罰則
長年の問題であった、無許可の「白トラ」による運送。これまでは行政指導が中心でしたが、今回の改正で取締りが劇的に厳しくなります。
最も注目すべきは、荷主の責任がこれまでとは比べ物にならないほど重くなった点です。
- 無許可のトラック、いわゆる白トラに運送を頼んだ荷主は、100万円以下の罰金の対象となります。(2028年施行予定)
私たちは、安易なコスト削減の先には、安全面、賠償面で大きなリスクがあるということを肝に銘じておきましょう。
この改正は、業界の安全と健全な競争環境を守るための、非常に重要な一歩になると思います。
最重要ポイント③:事業許可の「更新制」導入と「委託次数の制限」
これまでの許可が終身であったことに対し、今後は5年ごとの許可更新制が正式に決まりました。
| 改正前 | 改正後 |
| 事業許可:終身 | 事業許可:5年ごとの更新制 |
| 標準的運賃:目安 | 適正原価:法律上の義務 |
この更新制は、運送事業者が定期的に安全管理や財務状況、法令遵守をチェックし、
健全性を維持・向上させる責任を負うことを意味します。この「定期的な見直し」を怠る会社は、運送業界から撤退していただくという、厳しい姿勢の現れです。
また、過度な多重下請けを防ぐため、元請けとして運送を引き受ける場合、再委託の回数を2社までに制限するよう努める義務が課されます。
最重要ポイント④:ドライバー処遇改善の「法律上の義務化」
トラックドライバーは、日本の物流を支えるエッセンシャルワーカーです。しかし、その処遇は長年見過ごされてきました。
今回の改正では、会社側の義務として、ドライバーの働きぶりを公正に評価し、適正な賃金を支払うなどの適切な処遇を確保するための措置を講じなければならないと定められました。
- 公正な評価に基づく適正な賃金の支払い
- 労働者が有する知識、技能等についての適切な処遇の確保
これは、経営努力の範囲を超え、法令遵守として徹底が求められる事項です。この義務を果たすことが、深刻化するドライバー不足問題の解決、ひいてはあなたの会社の未来の輸送力を確保する、唯一の道筋なのです。
まとめ:未来は待ってくれない、今すぐ対策を
今回の法改正は、公布の日から3年以内に施行される予定です。遠い未来の話ではありません。すぐそこに迫っている現実です。
適正原価の導入、白トラ対策の荷主罰則、ドライバー処遇改善の義務化。
これらの新しいルールは、私たちの経営のあり方を根本から問い直すものです。正しい知識を知り、法律が求める水準を確実にクリアしていくことが、生き残りのための絶対条件となります。
私たちは、運送事業者の皆様がこの大きな変革期を乗り越え、持続可能な経営を実現できるよう、全力でサポートしてまいります。
貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案(動画紹介)
この動画では、行政書士の松本亜由美が、運送業の経営を根底から変える今回の法改正について、その重要性と影響を解説しています。
引用元・参考情報
- 国土交通省:物流:改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について
- 全日本トラック協会:改正貨物自動車運送事業法の解説
- 参議院:貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案 要旨
動画の解説もご覧ください
執筆:行政書士法人あゆみ 松本 亜由美
