【重要】「巡回指導」と「監査」は全くの別物です!混同が招く会社の存続に関わる重大なリスク
皆さまは、「トラック協会による巡回指導」と「運輸局による監査」の違いを明確に説明できるでしょうか。どちらも帳簿を見て、管理体制をチェックされる「面倒なもの」として、同じように捉えていませんか?
もし、「どっちも役所の人が来て、なんとなく書類を見ていくもの」という認識であれば、それは今すぐ改めてください。この二つの違いを正確に認識していないと、最悪の場合、会社の存続そのものに関わるような重大な事態を招きかねないのです。
私は行政書士として、この違いを知らずに大きな行政処分を受けてしまうケースを何度も見てきました。なぜなら、これらは目的もスタンスも、そして発動されるペナルティの重さも、全く異なるものだからです。
この違いをロジカルに解説し、皆さまの会社を危険から守るための「最強の防衛策」をお伝えします。
1. トラック協会の「巡回指導」は【あなたの会社を強くする健康診断】なのです
まず、トラック協会が行う巡回指導について掘り下げていきましょう。
巡回指導の立ち位置と目的
巡回指導を実施するのは、都道府県トラック協会です。この制度は、国土交通大臣から全国実施機関として全日本トラック協会が、そして地方運輸局長から都道府県トラック協会が指定を受けて運営されています。
ここで皆さまに強く断言しておきたいのは、トラック協会の巡回指導は、あくまでも「指導」であり、「事業者のサポート」が目的であるということです。
トラック協会の指導員さんは、運送会社の「味方」であり、「相談相手」なのです。
- 目的:事業者の皆さまの法令遵守をサポートし、その改善をお手伝いすること。
- 特徴:指導の結果に基づいて、運輸局から車両停止や営業停止といった行政処分を受けることはほとんどありません。罰則がない、ここが監査との決定的な違いです。
だからこそ、巡回指導の際には、日頃の疑問点を遠慮なくぶつけてください。 「この帳票の整理の仕方は合っているだろうか」「点呼の記録はこれで不備がないか」—監査で指摘される前に、問題点を修正するための具体的なアドバイスをもらえる、絶好の機会なのです。
2. 運輸局の「監査」は【法令違反を前提とした強制捜査】である
次に、国土交通省の機関である運輸局が行う「監査」についてです。こちらは、巡回指導とはその性質が180度異なります。
監査の目的とスタンス
運輸局の職員、すなわち監査官の目的は、サポートではありません。彼らの目的は、法令違反がないかをチェックする「取り締まり」、言い換えれば「捜査」なのです。
監査に臨む彼らの基本的なスタンスは、「何かしら違反があるに違いない」というものです。特に、重大な事故を起こした後や、内部告発があった後の「特別監査」では、運行実態が非常に厳しい目でチェックされます。監査は基本的に予告なく抜き打ちで実施されるケースが多く、その徹底ぶりは巡回指導とは比べ物になりません。
最も重いリスク:経営の根幹を揺るがす行政処分
もし監査で悪質な違反が見つかれば、容赦なく行政処分が下されます。
具体的には、
- 日報の改ざん
- 長時間労働の隠蔽
- 点呼の不実施
など、法令を意図的に無視した悪質な行為が発覚した場合、車両の使用停止、事業の停止といった、経営に直結する重いペナルティが待っています。そして最悪の場合、許可の取り消しとなり、会社そのものの存続が不可能になる悲劇が起こるのです。
3. 絶対にしてはいけないこと!巡回指導の指摘事項を「放置」するな!
巡回指導と監査の違いが明確になった今、運送会社として最もやってはいけないことは何でしょうか?
それは、「巡回指導は優しいから、特に厳しいお咎めもなかったし、このままでいいか」と、指摘事項を放置してしまうことです。
これは極めて危険な行為です。なぜなら、巡回指導で指摘される項目は、運輸局の監査で発覚した場合、「一発アウト」になる可能性が高い項目と同義なのです。
トラック協会は、皆さまの会社が監査で「大怪我」をしないよう、「今のうちにこの傷をしっかり治しておきましょうね」と、親切に教えてくれているのです。その親切な忠告を無視し、いざ監査が入った時に同じ点を指摘されてしまえば、それは「悪質性の高い違反」と見なされても仕方ありません。
巡回指導を単なる義務ではなく、「監査に対する最強の予行演習」として最大限に活用し、指摘された事項は100%改善してください。これが、いつ来るかわからない厳しい監査に対する、最も確実な防衛策となるのです。
まとめ:巡回指導は「健康診断」、監査は「捜査」
改めて、二つの制度を対比させます。
巡回指導の結果を全社で共有し、確実な改善活動に繋げているか、ぜひこの機会に見直しを行ってください。コンプライアンス体制を強固にすることが、結果として会社の信頼性を高め、健全な成長を支える土台となるのです。
引用元・参考情報
国土交通省関連情報
- 自動車運送事業等監査規則:監査の目的は「自動車運送に係る事故防止の徹底を期するとともに、運輸の適正を図ること」と定められています。(e-Gov法令検索より)
- 運送事業者に対する監査方針:監査は「輸送の安全の確保が最も重要である」との認識の下、法令遵守の徹底を図ることを目的として実施されます。(国土交通省 東北運輸局より)
全日本トラック協会関連情報
- 巡回指導制度の概要:全日本トラック協会(全ト協)が国土交通大臣から全国実施機関として指定され、適正化事業を推進しています。(全日本トラック協会より)
本記事の元になった動画はこちら
本記事の内容は、YouTubeチャンネル「あゆみのうんそうラボ」の以下の動画を参考に執筆しました。
執筆:行政書士法人あゆみ 松本 亜由美